内定取り消し

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本日、訪問したA病院の採用担当者からこんな話を伺いました。

3月末に、とある紹介会社のエージェントから、
「4月1日入職で決まっていた先生が内定を取り消されてしまいました。可哀想なのでA病院で雇ってもらえないですか?」
A病院の採用担当者は、可哀想だけれどもその医師に何か問題があるのではと、理由を聞くことなく断ったそうです。

内情は分かりませんが、推測すると可能性は3通りです。
a)医師側に問題がある
b)内定を取り消した病院側に問題がある
c)そもそも内定と承諾の関係が無かった

それでは、内定はどういった場合に取り消すことができるのでしょう?
「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であつて、
これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的に認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」
という判例があります。
具体的には
1)内定後の事情から、内定者を雇い入れると人件費が経営を圧迫して行き詰まることが明らかであり、既存の社員の解雇を回避するためには、内定取消しがやむを得ない場合
2)内定者が、内定後に病気や怪我をしたことによって正常な勤務ができなくなった場合
3)内定後の調査により、内定者が申告していた経歴や学歴の重要部分に虚偽があったことが判明した場合
4)内定者が、大学を卒業できなかった場合

医師の転職という事で、今回のケースでは4)は当てはまらず、また2)病気や怪我をしていないのであれば、1)3)の何れかにあたることが予想されます。
1)はb)病院側の事情にあたります。
1)は、一般的に天災やリーマンショックの様な不況の場合は起こりえます。
1)の場合でも明確な理由が必要です。
内定取り消しの理由に業績悪化が認められるケースには、
ア)経営上、人員削減が必要と認められる
イ)人員削減を避けるための経営努力を行った
ウ)理に適った人選の削減
エ)労働組合や社員との合意は果たされている
といった解雇要件を満たさねばならず、簡単に内定取り消しを行えないようになっています。

3)についてはa)医師側の問題に該当します。
経歴に虚偽があったことが判明→経歴にプラスして、医道審議会で処分者になっていないかなど病院側はリサーチされます。
大手医療法人では内定にあたって、関係各所にリサーチを入れ、慎重に内定を出されております。

面接のその場で「是非、一緒に頑張りましょう!よろしくお願いします。」と言われる方が、面接を受けた方は嬉しいと思いますが、口頭でも内定を出すことはリスクと分かっている医療機関は、その様な対応はしません。
事務的に感じるかもしれませんが、「後日、紹介会社さんを通じて結果を報告させて頂きます。」と言われる医療機関の方が、実は誠実・常識的であったりします。

簡単にまとめると
a)医師側に問題がある
→経歴詐称/医道審議会で処分された事がある/職員・患者様とトラブル発覚etc
b)内定を取り消した病院側に問題がある
→経営状態が急激に悪化/内定を安易に出し取り消した(後から面接を受けた方を採用した)etc
c)そもそも内定と承諾の関係が無かった
→意思疎通ができていなかった/内定通知と承諾を書面で取り交わしていなかったetc

万が一、内定を取り消された場合の対処法は、
・内定が出たという証拠を残しておく
内定決定が書面で送られてきた場合はそのまま証拠として残ります。
問題は口頭で内定を報告された場合です。万が一、一方的に内定を取り消された時に争うにも証拠がなく、最悪の場合は「そんなこと言っていない」とも言われかねません。
不利にならないよう、電話などで内定の連絡が来た場合はお礼メールを送るのも一つの手です。
「本日は内定の連絡ありがとうございました」などとメールを送れば日付も分かり証拠になります。

・自分から辞めるとは絶対に言わない
何かと上手い理由をつけて本人に内定を辞退するよう言ってくる場合もあります。相手側の問題なのにこちらが辞退する必要はありません。

・弁護士に相談する
内定は労働契約を結んだことになるので、取り消し理由が合理的でない場合には民事訴訟をするという方法もあり、実際に勝訴した判例も出ています。
内定を取り消すような法人に何としても入りたいと思うかは個人次第ですが、「従業員としての地位」を訴えることはできます。

医療機関の経営は、診療報酬改定に大きく影響を受けます。
規模の大きい医療機関であれば全体でカバーできますが、規模が小さくなるにつれ影響は甚大です。
過去にも施設を中心に訪問診療をしているクリニックが診療報酬改定の影響で、看護師さんの内定を取り消したことが問題になっていました。

近年、医療機関側も人事労務に関する勉強会を開いたり、コンプライアンスに対する意識が高まってきております。
JMCではそういった医療機関と密にやり取りをし、先生方に安心して転職して頂けるよう努めて参ります。